今回は,簡単・分かりやすい民法改正解説シリーズの第24弾です。
今回のテーマは,「相殺」です。「そうさい」と読みます。
「相殺」については、判例法理の明文化、判例を参考にした修正、不合理な点の是正等が行われています。ただ、相殺の要件、効果、行使方法など、相殺の基本ルールに大きな変更はないといえます。
ただし、相殺は、債務の消滅原因となる以外に、担保としての機能も有し、特に金銭債務について、実務的にも非常によく行われていることから、基本的な解説を行った上で、詳細な解説を行っていこうと思います。
今回は、相殺の前編として、相殺の基本、改正の概要について、説明・解説します。詳しい改正内容については、後編で説明・解説します。
相殺とは
相殺とは、ある人とある人が、同一種類の債権と債務をそれぞれ有している場合に、相殺の意思表示をすることで、債権と債務が重なり合う部分(対当額)について消滅させることをいいます。
例えば、Aさんが、Bさんから50万円を受け取る権利を有している一方、Bさんに100万円を支払う義務を負っている場合に、相殺の意思表示をすることで、債権と債務が重なり合う50万円については、それぞれ消滅し、結果として、AさんがはBさんに残りの50万円を支払えばよいということになります。
相殺の意思表示をする方の当事者の債権を自働債権(Aさんの権利)、される方の当事者の債権を受働債権(Bさんの権利)といいます。
相殺の機能
相殺は、法律上は、上記のような債務を消滅させる機能が規定されていますが、取引社会においては、担保として重要な機能を果たしています。
今回の改正においても、この相殺の担保的機能を害さないように、あるいは、より重視する方向での改正が行われました。
相殺の要件
相殺が認められるためには、①相殺適状にあること(現行民法505条1項)、②相殺禁止の意思表示がないこと(同505条2項)、③相殺禁止債権に当たらないことが必要です。
①の相殺適状(「そうさいてきじょう」と読みます)とは、簡単に言うと、当事者の間で、互いに、有効かつ同種で、相殺を許す性質の債権が対立し、双方が弁済期にあることをいいます。この点については、改正は行われていません。
②については、弁済の規定に合わせる形で、改正が行われました。
③の相殺禁止債権に当たらないこととは、具体的には、不法行為による損害賠償債権(同509条)、 差押禁止債権(同510条)、又は、 差し押さえられた債権(同511条)のいずれにも当たらないことをいいます。
これらの内、不法行為による損害賠償債権について、相殺禁止の範囲を狭める方向での改正が行われました。また、差押えられた債権についても、判例法理を明文化する内容の改正が行われました。
相殺の効果
相殺が行われると、対立していた債権債務は、対当額で消滅します(同505条1項)。
また、その時点は、相殺したときに消滅するのではなく、相殺適状のときにまで遡って、消滅します(同506条2項)。
これらの基本的な相殺の効果については、改正は行われていません。
相殺の方法
相殺は、対立する債権債務の一方当事者からの意思表示によって、行うことができます(同506条1項)。相手当事者の同意は不要です。
相殺の方法について、改正は行われていません。
その他の改正点
当事者間において、相殺適状にある債権債務が複数ある場合、どのような順序で相殺の効果が生じるかは、弁済の充当に関する規定が準用されています(同512条)。
この点について、弁済の充当に関する規定の改正が行われたことに合わせて、相殺に関する規定も改正、明文化するなどの改正が行われました。
終わりに
相殺に関する民法のルールの概観と改正点をまとめると、以下のようになります。
〈相殺の要件〉
① 相殺適状(505条1項)
② 相殺禁止の意思表示がないこと(505条2項)→他の規定に合わせ修正
③ 相殺禁止債権に当たらないこと
・ 不法行為による損害賠償債権(509条)→禁止の範囲を狭める修正
・ 差押禁止債権(510条)
・ 差し押さえられた債権(511条)→判例法理の明文化
〈相殺の効果〉
① 対当額で消滅(505条1項)
② 遡及効(506条2項)
③ 充当(512条)→判例法理の明文化
〈相殺の方法〉
一方当事者からの意思表示(法定相殺)(506条1項)
次回コラム、相殺の後編において、4つの改正点について、詳しく見ていきましょう。