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事務所コラム

簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ33 売買⑤:(買主の代金支払拒絶権・手付・買戻し~

今回は,簡単・分かりやすい民法改正解説シリーズの第33弾です。

 

第5回に分けて,私たちに最も身近な契約といえる「売買」に関する改正をみてきましたが、売買の改正については、今回が最後です。

民法は、売買について、売買の節を設け、その中に「売買総則」「売買の効力」「買戻し」の3つの款があることは、売買の第1回で説明したとおりです。
第2回から第4回を使って、大改正されることになった、その内の「売買の効力」に規定されている「売り主の担保責任」についてみていきました。

最終回の今回は、売り主の担保責任以外の売買に関する改正について説明します。
売買の主な改正は売り主の担保責任ですので、その他の改正はごく簡単にしたいと思います。

売買の第1回コラムはこちら:簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ29 売買①:売買の改正概要・売主の義務~

売買の第2回コラムはこちら:簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ30 売買②:売主の担保責任改正の概要~

売買の第3回コラムはこちら:簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ31 売買③:売り主の担保責任・物の契約不適合~

売買の第4回コラムはこちら:簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ32 売買④:売り主の担保責任・権利の契約不適合と期間制限ほか~

 

買主の代金支払拒絶権(改正案576条)

他人物売買などの場合で、後から権利を主張されて目的物を失うおそれが出てきた場合に、代金の支払いを拒絶できるという規定です。
権利を主張されて、という部分に、たとえば債権を購入したが債務者が債務の存在を認めないといったケースも含まれることが明らかになるように「その他の事由」という文言が追加されました。
また、すでに買い受けた権利を失うおそれでなく、取得できないおそれも含むように文言が追加されました。

 

買主の代金支払拒絶権(改正案577条)

購入した不動産に抵当権の登記がある場合に代金の支払いを拒絶できるという規定です。
ですが、抵当権の登記があることが、契約の内容として織り込み済みだった場合、この規定は適用されません。
このことが明らかになるように、「抵当権の登記」の前に「契約の内容に適合しない」という文言を追加しました。

 

手付(改正案557条)

民法が定める手付は、手付を交付した買主からは手付放棄、手付を受領した売主からは手付倍返しにより、契約を解除できるといういわゆる「解約手付」です。

従来の民法で、解除が認められるのは「当事者の一方が契約の履行に着手するまで」と規定されていました。
ですが、契約の履行に着手した側が、履行の着手後に解除することは許されるという判例法理があり、民法の規定と整合していませんでした。
この判例法理を明文化するため、「相手方が契約の履行に着手」するまでと変更されました。

また、売主から手付けを倍返しして解除する場合に、従来は「倍額を償還して」という文言になっており、仮に買主が受け取らない態度をとった場合には供託までしなければならないようにも読めました。
けれど、判例はそこまでは不要で、「現実の提供」で足りると解していました。
そこで、この判例法理も明文化して、「倍額を現実に提供して」という文言に改めました。

 

買戻し(改正案579条~585条)

買戻しとは、売買契約と同時にする特約で、将来売主からの一方的な意思表示により移転した財産権をもとに戻すことができるというものです。

従来の民法では、買戻しの際には「買主が支払った代金及び契約費用」を返還しなければならないと規定され、これと異なる合意は許されない(強行規定)と解されてきました。
しかし、支払った代金の全額を返すかどうかなどは、当事者の自由な合意にまかせてよいと考えられます。
そこで、この点を任意規定に改める改正が行われました(改正案579条前段)。

また、買戻しの特約の対抗力に関して、ちょっとした文言の修正が行われました(改正案581条)。

終わりに

以上が、売買の節の売り主の担保責任以外の改正内容です。

第5回に分けて、売買の改正についてみてきましたが、全体として、買主の保護が進められたという印象です。
消費者保護の観点からは望ましい面があると思いますが、昨今ではインターネットオークションなどで一般の方が売主となる場合も多いため、安心ばかりはできません。

実質的な改正点ではないため、本シリーズでは触れませんでしたが、売り主が担保責任を負わない旨の特約をすることもできます(572条)。
いわゆる「ノークレーム・ノーリターン」はこの特約に当たります。一般の方が売主となる場合には、こうした防衛策も検討する必要がありそうです。

 

売買は、基本的、典型的な契約であり、一般の方にももっとも身近な契約の1つです。
愛知・岐阜・三重などの名古屋近郊で、買った商品に不備があった、商品を売ったのに売買代金が支払われないなどの売買契約のトラブルに巻き込まれた方、法律トラブルでお困りの方、民法改正にあたり、基本の売買契約書を見直したいなどの中小企業・事業者の皆様は、名古屋駅前の中部法律事務所まで、ご相談下さい。

簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ32 売買④:売り主の担保責任・権利の契約不適合と期間制限ほか~

今回は,簡単・分かりやすい民法改正解説シリーズの第32弾です。

 

現在、第5回に分けて,私たちに最も身近な契約といえる「売買」に関する改正をみています。
前回、売買の中でも大改正されることになった「売主の担保責任」について、物の種類・品質・数量に関して契約不適合があった場合の4つの救済手段(履行の追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約の解除)(改正案562条~564条)を1つずつ説明・解説しました。

売買の第1回コラムはこちら:簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ29 売買①:売買の改正概要・売主の義務~

売買の第2回コラムはこちら:簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ30 売買②:売主の担保責任改正の概要~

売買の第3回コラムはこちら:簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ31 売買③:売り主の担保責任・物の契約不適合~

 

売買・第4回の今回は、売り主の担保責任のもう1つのケースである権利に関する契約不適合の改正と、期間制限に関する改正、売り主の担保責任のその他の改正について、説明・解説していきます。

 

権利に関する契約不適合(改正案565条)

  • 前3条の権利は、売主が買主に移転した権利が契約の内容に適合しないものである場合(権利の一部が他人に属する場合においてその権利の一部を移転しないときを含む。)について準用する。

 

売買の目的である権利に関して契約不適合がある場合として、従来想定されていたケースの内、一部が他人の権利である場合、地上権等が付着している場合、抵当権等が付着している場合を、まとめて規定しています。

権利に関する不備としては、従来、売買の目的である権利の全部が他人の権利で、権利の移転に失敗した場合が想定されるケースに含まれていました。
けれど、それはただの債務不履行(履行遅滞)であって、追完や代金減額が問題とならないため、権利に関する契約不適合のケースからは外されています。
この場合、債務不履行の一般ルールに従って、解除か損害賠償で対応することになります。
なお、善意(他人の権利であることを知らないで)で他人の権利を売ってしまった売主の解除権(現行民法562条)は廃止されます。
前述のとおり、他人物の売主には権利を取得して買主に移転する義務があり(改正案561条)、知らなかったからといって解除を認めることはこの義務と矛盾するという考えです。

本条でも、売主に「契約の内容に適合した権利を移転する義務」があることを表明しています。
権利に関する契約不適合の救済手段として、前回コラムで説明した履行の追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約の解除という4つの救済手段が、すべてそのまま適用されます。

さらに、抵当権等が付着している契約不適合について、従来から認められていた費用償還請求権(現行民法567条2項)だけは、4つの救済手段とは別に認められる特別の救済手段なので、条文を残しました(改正案570条)。

 

売り主の担保責任の期間制限に関する改正(改正案566条)

  • 売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。(後略)

 

従来、1年以内に権利行使しなければならないとされていた期間制限について、厳しすぎるとの声もあり、見直されました。

まず、期間制限が適用される対象を狭められました。
改正民法では、売り主の担保責任について、大きく「物の種類・品質・数量に関する契約不適合」と「権利に関する不適合」に分けられていますが、期間制限を受けるのは、「物の種類・品質に関する契約不適合」だけになりました
「物の数量に関する契約不適合」と「権利に関する契約不適合」は期間制限の対象から外れます。

さらに、1年という期間内にしなければならない行動も変更し、簡単にしました。
従来は代金減額や解除等の「権利行使」を1年以内にしなければならないという条文になっており、判例により権利行使の意思を明確に表明することが必要と解されてきましたが、「通知」で足りることにしました
通知の内容は、売主が対応を検討できる程度に契約不適合の種類と大体の範囲を知らせるものであることが想定されています(部会資料75A)。

期間内にすべき行動が「権利行使」となっている現行法では、同じく権利行使の期間制限である消滅時効との関係が問題となりましたが、改正案ではよりわかりやすくなります。
このルールの本質は通知義務とそれを怠ることによる失権ということになり、消滅時効とは両立します。
つまり、「物の種類・品質に関する契約不適合」は、1年以内に通知をすれば、権利が保存されて通常どおりの消滅時効が適用され、通知を怠れば失権します。
「物の数量に関する契約不適合」と「権利に関する契約不適合」には最初から消滅時効のみが適用されます。
※消滅時効の民法改正については、本シリーズのバックナンバーをご覧ください。

 

担保責任に関するその他の改正

危険負担の債権者主義(引渡時に移転)

改正案567条1項 売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払いを拒むことができない。

本シリーズの危険負担の改正に関する記事で、特定物について権利を移転する契約をした場合、その滅失・損傷のリスクは債権者(売買なら買主)が負うというルールが現行法にはあり、強い批判を受けて改正案では条文(現行法534条)が削除されたことを述べました。
契約の瞬間からリスク負担が買主に移り、災害等で目的物が滅失しても代金は払わなければならないという結論に共感できないからです。
しかし、いつまでも永遠にリスク負担は売主のままというのも不合理です。
リスク負担が移転するのは、引渡しのタイミングとするのが適切だと多くの学説が考えてきました。
改正案は、534条をまるっきり廃止するのではなく、リスク移転のタイミングを引渡し時点に修正した上で、特定物の権利移転が最も典型的に問題となる売買契約のところで改めて規定しているのです。
したがって、債権者主義に関する534条は削除ではなく、修正+移動というのが正しいかと思います。
なお、リスクが移転する時点は、引渡しの時点だけでなく、買主が受領を拒絶するなどして引渡しの受領遅滞があった場合にもリスクが移転します(改正案567条2項)。
※危険負担の民法改正については、本シリーズのバックナンバーをご覧ください。

競売における担保責任(改正案568条)

裁判所の競売も一種の売買ですが、特殊性があるので特別の規定が置かれています。
従来は物の隠れた瑕疵についての担保責任のみが除外され、それ以外は競売にも適用されるというルールでした(現行法568条、570条但書)。
今回の改正では、これを物に関する契約不適合全体にも適用されるように拡大すべきだという議論がありましたが、実務の支障となるなどの反対意見により見送られ、結局これまでどおり「物の種類・品質に関する契約不適合」は対象外となりました(改正案568条4項)。改正は、担保責任ルールの整理に伴い必要となったマイナーチェンジのみです。

 

終わりに

以上が、売り主の担保責任の権利に関する契約不適合の改正と、担保責任の期間制限に関する改正、売り主の担保責任のその他の改正に関する、説明・解説していきます。
これまで、売買の第2回・第3回・第4回を使って、売り主の担保責任の改正を見てきましたが、次回は、売買の最後(第5回)として、売買に関するその他の改正みていきます。

簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ31 売買③:売り主の担保責任・物の契約不適合~

今回は,簡単・分かりやすい民法改正解説シリーズの第31弾です。

 

現在、第5回に分けて,私たちに最も身近といえる「売買」に関する改正をみています。
前回、売買の中でも大改正されることになった「売主の担保責任」について、売買の目的物・権利に不備がある・契約に適合しないケースとして、物に関する契約不適合と権利に関する契約不適合の2つに分類されることになったと説明・解説しました。

売買の第1回のコラムはこちら:簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ29 売買①:売買の改正概要・売主の義務~

前回(売買の第2回)のコラムはこちら:簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ30 売買②:売主の担保責任改正の概要~

 

売買・第3回の今回は、従来の民法で、目的物の数量不足や一部滅失のケース、隠れた瑕疵があった場合として想定されていた「物の種類・品質・数量に関する契約不適合(物に関する契約不適合)」(改正案562条~564条)について、改正点を詳しくみていきます。

改正民法は、物に関する契約不適合の際の買い主の救済手段として、4つの救済手段を用意しました。4つの救済手段1つ1つを、順に説明・解説していきます。

 

追完請求権:改正案562条1項 

  • 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。(後略)

 

上記は、1つめの救済手段、「追完請求権」の条文です。
これまでは規定のなかった履行の追完請求(不備の是正)を、第一の救済手段として新設しました。

要件

「契約の内容に適合しない」という文言がここで初めて使われ、売主に「契約の内容に適合した物を引き渡す義務」があることを認める新しい立場を表明しています。
売買の目的物が特定物か不特定物かは関係ありません。

従来、目的物の品質等に問題・不備があった場合について、「瑕疵(かし)」という用語が用いられていましたが、わかりにくいのでやめました。今後は「契約不適合」です。
その具体的な意味は、契約の内容を踏まえて目的物に求められる種類・品質・数量の目標値に到達していないということです。

求められるレベルは契約によってさまざまなので、契約の解釈が重要になります。
たとえば、同じスマートフォンを買う場合でも、家電量販店や携帯ショップから新品で買う場合、中古店から中古で買う場合、ネットオークションでジャンク品として買う場合では、求められる品質が異なります。
新品なのか中古なのか、動作保証とうたっていたのか、価格は相場より安かったのかなどの事情を考慮して、その契約ではどの程度の品質が求められていたのかを確定し、それに満たない場合に契約不適合ありと判断されます。
従来の「瑕疵」の判断も中身は同じようなものでしたが、もともとキズを意味する「瑕疵」という言葉からこの内容を正しく読み取るのはなかなか難しかったと思います。

従来の570条は「隠れた瑕疵」と規定していましたが、この「隠れた」の部分もなくなりました。
これは、次の理由によります。
「隠れた」とは、外形上明白ではなく、買主が通常の注意をしても気が付かなかったというような意味です。
しかし、上述のとおり「契約不適合」の判断は、その契約においてどのレベルの品質等が求められていたのかの判断であり、裏返せばどの程度の不具合までは織り込まれていたのかの判断でもあります。
買主が気が付いていたのか、気が付くべきだったのかという事情は、この判断の中に入ってくるので、それとは別に「隠れた」という要件は不要と考えられたのです。

追完請求権は、買主の責めに帰すべき事由による契約不適合の場合には認められません(改正案562条2項)。
ここでいう「買主の責めに帰すべき事由による契約不適合」とは、目的物の引渡前に買主側の原因で生じた契約不適合のことで、そのようなケースでは買主の救済は否定されるということです。
なお、目的物が引き渡された後に買主側の過失で故障させてしまった場合などはもちろん認められません(これは売買・第5回コラムで掲載予定の危険移転(改正案567条)の問題になります)。

追完の方法

追完の方法は、「修補」「代替物の引渡し」「不足分の引渡し」の3種類です。
まずは、買主のイニシアチブで希望する追完方法を選んで請求することができます。
これに対して、売主側は「買主に不相当な負担を課するものでないとき」に限り、売主の選んだ追完方法で追完することができます(改正案562条1項但書)。
たとえば、購入したファンヒーターが初期不良で消火してしまうので、販売店に交換を求めたが、販売店は修理で対応する、といったケースが考えられます。

代金減額請求権:改正案563条1項

  • 前条第1項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。

 

上記は、2つめの救済手段、「代金減額請求権」の条文です。
従来の民法では、②売買の目的物の一部が他人の権利だった場合と③数量不足・一部滅失の場合にのみ代金減額請求が認められていましたが、これを契約不適合全体に拡大しました。
たしかに、一部が足りないというケースでは割合の計算がしやすくて代金減額になじみますが、そのほかのケースでも使える場面は少なくないはずだからです。
たとえば、新商品のオーブンレンジのレンジ機能は正常だが、扉に傷がついているので代金を安くしてもらう、などの使い方が考えられます。

要件

ただし、修理すれば直るかもしれない不具合まで、いきなり代金減額を求めるのは行き過ぎです。
そこで代金減額請求の前提として、履行の追完の催告をしなければならないことになっているのです。
例えば、先ほどの例で、扉についていたのが傷ではなく汚れである場合など、代金減額の前に、汚れのない物に代えてもらう、拭き取ってきれいにしてもらうなど、履行の追完を先に要求しなければなりません。
売主が追完はしないと明言しているなど、催告をしても無駄と思われる一定の事情がある場合だけ、追完の催告を省いて代金減額請求をすることができます(改正案563条2項)。

買主に帰責事由がある場合には、やはり代金減額請求権も否定されます(改正案563条3項)。

損害賠償請求権及び解除権:改正案564条 

  • 前2条の規定は、第415条の規定による損害賠償の請求並びに第541条及び第542条の規定による解除権の行使を妨げない。

 

上記は、3つめの救済手段「損害賠償請求権」と4つめの救済手段「解除権」の条文です。

第415条、第541条、第542条というのは、債務不履行の一般ルールです。
つまり、契約不適合は債務不履行だから、普通に損害賠償を求めたり契約を解除することもできますよ、ということを規定しています。
※損害賠償と解除の改正については、本シリーズのバックナンバーをご覧ください。

従来の損害賠償や解除との違い

従来、売主の担保責任として認められてきた損害賠償や解除とは、異なってくる点があります。

まず、債務不履行による損害賠償には、債務者に帰責事由がない場合には免責するというルールがあり(改正案415条1項但書)、これまではなかった売主(=債務者)の免責が認められる可能性があるという点です。
もっとも、この免責が認められるのは実際には不可抗力のようなケースに限られるため、実務にさしたる影響はないだろうといわれています。
また、上述の代金減額請求は、売主の帰責事由の有無を問わずに請求できるため、結果的に同じ救済が実現するケースもあると思われます。

次に、従来の担保責任では「買主の善意」(契約当時に瑕疵を知らなかったこと)が損害賠償や解除の要件とされていましたが(上記表参照)、その要件はなくなります。
これは「隠れた」がなくなった理由と同じで、買主が知っていたかどうかという事情は、契約不適合の判断の中に入ってくるもので、それとは別に、知っていたという事情だけで救済を否定すべきとは考えられないからです。

さらに、解除に「そのために契約をした目的を達することができないとき」という要件が求められていたのもなくなります。
もっとも、債務不履行の一般ルールに従うと、履行の催告をしてから解除するのが原則で(改正案541条)、「催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがない」と思われる一定の事情がある場合にだけ催告なしで解除できる(改正案542条)ことになるので、実質的には変わらないといえます。

買主に帰責事由がある場合について

損害賠償について、買主に帰責事由があるということは、売主に帰責事由がないということになり、損害賠償は認められません。
解除については、改正案543条により、買主(=債権者)に帰責事由がある場合の解除権行使が認められません。

したがって、4つの救済手段のいずれについても、買主に帰責事由がある場合には救済が否定される、とまとめることができます。

 

終わりに

以上が、売り主の担保責任の内、物に契約不適合があるケースについて、4つの救済手段を順に見てきました。
次回、売買の第4回では、もう1つのケースである権利に関する契約不適合の改正と、担保責任の期間制限に関する改正、売り主の担保責任のその他の改正について、説明・解説していきます。

簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ30 売買②:売主の担保責任改正の概要~

今回は,簡単・分かりやすい民法改正解説シリーズの第30弾です。

 

前回から、第5回に分けて,私たちに最も身近といえる「売買」に関する改正をみています。
前回、売買の効力について主に改正されることとなり、中でも特に「売主の担保責任」が大改正されることに触れました。
前回のコラムはこちら:簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ29 売買①:売買の改正概要・売主の義務~

売買・第2回の今回は、大改正されることになった売主の担保責任について、従来からのルールとその問題点に触れながら、改正の概要と根本的に見直された考え方について、説明・解説します。

 

従来のルールと問題点

売り主の担保責任とは

買った物の品質が悪い、数が足りない、他人の権利がついていたなど、移転された権利や引き渡された物に不備があった場合、買主には一定の救済手段があります。
売主側から見れば責任であり、これを売主の担保責任といいます。

民法は、売買目的物に不備があるケースとして6つのケースを想定し、その際の買い主の救済手段として計3種類の手段を用意し、ケースに合わせて、使える救済手段を規定しています。

具体的には、不備のケースとして、売買の目的物・権利に以下の不備があった場合を想定しています。

  • ①全部他人の物・権利であった場合
  • ②一部他人の物・権利であった場合
  • ③数量が不足又は一部が滅失していた場合
  • ④地上権等の権利が付着していた場合
  • ⑤抵当権等が付着していた場合
  • ⑥隠れた瑕疵があった場合

 

そして、これらのケースを救済するために、

  • 契約の解除
  • 損害賠償請求
  • 代金減額

という3種類の救済手段を用意しています。

また、これらの救済手段には、1年以内に権利行使しなければならないいう厳しい期間制限が設けられています。

問題点

以上の従来のルール・体系には、以下のように、様々な疑問や問題点がありました。

  • 履行の追完は請求できないのか。

履行の追完とは、修理や交換等により不備を是正することです。従来は規定がありませんでした。

  • 不特定物売買には適用されないのか。

不特定物売買とは、売買の目的物について、たとえば本や食品のように同じものがたくさんあって、その中のどれでもいいとする売買のことです。
これに対し、美術品や姿を見て選ぶ観葉植物、ペットなど、それそのものでなければだめなのは特定物といいます。
かつての通説は、不特定物の場合は瑕疵あるものが引き渡されても履行にならず、引き続き履行を求めればいいだけなので、不備のケース⑥の瑕疵担保責任は適用されないと考えていました。

  • そもそもなぜ債務不履行の一般ルールに従った解除や損害賠償で処理するのではなく、担保責任としての解除や損害賠償が規定されているのか。

最も根本的な問題です。売買の目的物に不備があるということは、すなわち契約の内容に適合しないことなのです。売主に契約の内容に適合する権利を移転する(物を引き渡す)義務があると考えるかどうかにより、この問題に対する説明が全く違ってきます。

  • ケース④や⑥にも代金減額を認めるべきではないか。

現行民法では、ケース④や⑥の場合には、代金減額請求が認められていません。

  • ①の場合に売主からの解除権は不要ではないか。

現行民法では、ケース①の場合に、売主からも契約の解除ができることになっています。

  • 期間制限が厳しすぎるのではないか。

以上の問題に、改正案は対処しました。

 

改正の概要

民法が想定する不備のケースを、物と権利の2種類に分けました。

  1. ○物に関する契約不適合(売買目的物の種類・品質・数量に不備:従来のケース③と⑥)
    ○権利に関する契約不適合(移転した権利に関する不備:従来にケース②、④と⑤)

救済手段として、いずれのケースでも

  1. ・履行の追完(不備の是正)
    ・代金の減額
    ・損害賠償請求
    ・契約の解除

ができるようになりました。

また、従来、厳しすぎるとの声もあった1年の期間制限が見直されました。

シンプルでわかりやすくなり、かつ、買主の救済が拡充された改正であるといえます。

 

改正のポイント:契約責任説の採用

今回の改正では、売り主の担保責任について、根本的に考え方を変えることになりました。
前回のコラムでお話ししたとおり、今回の改正で、売主には「契約の内容に適合した権利を移転する(物を引き渡す)義務」があることをはっきりさせました。
これはつまり、売り主の引き渡した物・権利に不備がある、すなわち、契約に適合していないということは、債務不履行であると考えることになります。
この考えに立つと、「売買」の節に規定された担保責任の規定は、債務不履行の売買における特殊ルールと理解することになります。
このような考え方は契約責任説とよばれ、民法改正により、この契約責任説が採用されたといえます
ただし、後述のとおり、解除や損害賠償は売買における特殊ルールを廃止して、期間制限の点以外は債務不履行の一般原則に戻しているので、契約責任説からさらに進んで、債務不履行責任への一元化を志向したものといってもよいでしょう。

このような考え方に対して、従来の民法では、法定責任説と呼ばれる考え方が通説(一般的)とされていました。
法定責任説は、売り主の担保責任について、特定物の売買を念頭に、売主としてはその物を引き渡せば義務を果たしたことになり、債務不履行はないが、それでは買主が気の毒だから買主保護の制度を用意したものと考えます。けれど、このような考えでは、硬直的で現代に合っていないと批判されるようになり、改正案により完全に否定されました。

こうして、売り主の担保責任は、契約責任説の立場から構成しなおされ、上記のとおり、新しく整理されたのです。

 

終わりに

以上が、売り主の担保責任に関する現行民法のルールとその問題点、改正の概要と改正のポイントです。
売り主の担保責任については、シンプルに、物に関する契約不適合と権利に関する契約不適合の2つのケースに分類されることになりました。
次回、売買の第3回では、この内の1つ目のケース、物に関する契約不適合について、説明・解説していきます。

簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ29 売買①:売買の改正概要・売主の義務~

今回は,簡単・分かりやすい民法改正解説シリーズの第29弾です。

民法が,私たちにとても身近なルールを決めている法律であることは,シリーズ“ゼロ”でお話ししたとおりです。

(⇒簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ”ゼロ” 民法改正の意味~

 

今回から、第5回に分けて、私たちにとても身近な契約である「売買」についての改正内容を見ていきます。

売買について第1回の今回は、売買に関する民法の基本的な規定の仕方や改正の概要を見たうえで、新たに明記された売主の義務についてみていきます。

 

民法の規定について

民法は、「売買」という節を設けて、売買のルールを定めています。
ただし、売買契約に関係するルールのすべてがこの節に書いてあるわけではなく、重要なルールが契約総則や債権総則、さらには民法総則などの各箇所に散らばって規定されていることに注意が必要です。
これは民法が、パンデクテン方式といって、各カテゴリーに共通するルールがあれば総則として先に書き出して、各カテゴリーの中ではそのカテゴリーに特有のルールを規定するという編纂スタイルをとっているためです。
「売買」の節には、契約一般に共通のルールや債権一般に共通のルールを除いた、売買特有のルールが規定されています。

そして、「売買」の節には「売買総則」「売買の効力」「買戻し」の3つの款があります。
このうち大きな改正があったのは「売買の効力」です。
「売買の効力」に関する規定は、売主の義務、売主の担保責任と買主の義務という、大きく3つが規定されています。

 

売買の改正の概要

売買に関する改正は、「売買」の節の中の「売買の効力」の款について主に改正があり、さらに、その内の「売主の担保責任」について、大改正がありました。
主に改正のあった「売買の効力」について概要をまとめると、以下のとおりになります。

  • 〈売主の義務〉560条→改正案560条~561条

 売買契約の基本効果として、売主が負う義務の内容を明記しました。

  • 〈売主の担保責任〉561条~572条→改正案562条~572条

 大改正があり、ルールの順番や構造も大きく変更されました。

  • 〈買主の義務〉573条~578条→改正案573条~578条

 買主の代金支払義務についてのルール群ですが、大きな変更はありません。

 

売主の義務に関する改正

今回の民法改正では、これまでに規定がなかった売主の基本的な義務を明記するという改正が行われました。
具体的には、次のとおりです。

(1)契約の内容に適合した権利を移転する(物を引き渡す)義務

売買契約の売主の義務といえば、財産権を買主に移転することです。このことは従来も555条(売買契約の定義規定)により間接的に規定されていました。
では、どのような財産権を移転すればよいのでしょうか。実は一部が他人の物だったとか、品質が悪いものだったという場合でも、一応財産権は移転されたから売主の義務は果たされたといえるのでしょうか。
答えはノーで、売主は契約の内容に適合した権利を買主に移転しなければなりません。物についても、その種類・品質・数量が契約の内容に適合した物を買主に引き渡さなければなりません。

これらについて従来は規定がなかったばかりか、否定する考え方が支配的だった時代もありました。しかし、現代の取引実務に合わない考え方なので、今回の改正では「契約の内容に適合した権利を移転する(物を引き渡す)義務」があることをはっきりさせることにしたのです。
ただし、独立の条文でこれを表現することは避け、後述の担保責任に関する改正案562条や565条の前提として読み取れる形になっています(部会資料83-2)。

(2)対抗要件具備義務(改正案560条)

不動産の売買では不動産登記をしますが、この登記は物権変動を第三者に対抗するための対抗要件です(177条)。
この対抗要件を備えないと、たとえば二重譲渡により別の買主が現れた場合に、自分が売主だと主張して裁判で勝つことができません。
売主には、権利の移転に伴って、その権利移転について買主に対抗要件を具備させる義務があると解されていますが、従来規定がありませんでした。
そこで、改正案560条でこのことが明文化されました。

(3)他人物売買の特例(改正案561条)

他人の物を売る売買契約も有効です。その場合、売主はその他人から権利を取得して、これを買主に移転しなければなりません。
これについては従来も規定がありました(560条)。
改正案では、全部他人の権利だった場合のほか、一部が他人の権利だった場合にもその一部について同様に取得して移転する義務があることを明記しました。

 

終わりに

以上が、売買に関する現行民法の規定と、改正の概要、さらに明記されることとなった売主の基本的な義務についての説明・解説です。
次回、売買の第2回では、大改正されることとなった売主の担保責任について、改正の概要を見ていきます。

簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ28 定型約款(ていけいやっかん)・後編:不当条項規制・約款変更~

今回は,簡単・分かりやすい民法改正解説シリーズの第28弾です。

 

民法で新たに新設されることとなった「定型約款(ていけいやっかん)」について、前編・中編で、定型約款の定義や、定型約款の個別の条項が契約内容として組入れられる要件を見てきました。

定型約款・前編のコラムはこちら:簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ26 定型約款(ていけいやっかん)・前編:改正の経緯・定型約款とは~
定型約款・中編のコラムはこちら:簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ27 定型約款(ていけいやっかん)・中編:契約への組み入れ要件・開示~

定型約款の最終回である今回は、定型約款における不当条項の規制、定型約款を変更するための要件について、詳しく説明・解説していきます。

 

不当条項規制(改正案548条の2第2項)

不当条項規制の内容

契約の当事者が契約の内容を一つ一つ話し合って決める場合には、その内容が最終的に双方にとって合理的なものとなることが期待できます。
しかし、一方当事者が決めた契約内容に一括して同意するか否かの自由しかない約款による取引では、その内容の合理性が保障されていません。
あまりにも不当に相手方の利益を害する内容の条項についてはその効力を否定することとして、定型約款の合理性をある程度保つルールが必要とされます。

民法改正案548条の2第2項において、定型約款の条項のうち「相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるもの」は、組入れを否定されることとしました。
なお、民法第1条第2項の基本原則とは「信義則」のことです。

このように、定型約款の合理性を保つためのルールがあることで、約款内容の認識についてはかなり緩やかな要件で組入れを認めることも許されるのだといえます。

具体例

具体的に不当条項とされる可能性のある条項としては、たとえば、定型約款準備者が任意に債務を履行しなくてよいとするものや、故意重過失による債務不履行責任を免除するもの、相手方が裁判所に提訴することを全面的に禁じるものなどが考えられます。

また、主たる給付とは無関係で予測不可能な商品やサービスを抱き合わせ販売するなどのいわゆる不意打ち条項も、不当条項の一種とされます。
改正案の審議過程では不当条項と不意打ち条項は別々の条文で規制することが検討されていましたが、終盤で一つの条文に一本化されました。その際に不意打ちを意味する「合理的に予測できない」という表現も文言上なくなりましたが、このことは不当性の考慮要素である「その定型取引の態様」の中で、合理的に予測できない条項については相手方にそれを説明するなどわかりやすくする措置を講じていたかどうかとして考慮され、措置が講じられていなければ信義則に反すると判断されやすくなるという形で、実質的に取り込まれたものです(部会資料83−2)。

消費者契約法による不当条項規制との違い

この定型約款の不当条項規制とよく似ているのが、消費者契約法による不当条項規制です。
同法8条は、事業者と消費者との契約のうち、事業者の損害賠償責任を免除する条項を無効としています。同法9条は、消費者の支払うべき損害賠償の額をあらかじめ過大な額で予定しておく条項を無効としています。そして、同法10条は民法・商法その他の法律の規定を適用した場合と比較して消費者の権利を制限し、または義務を加重するもので、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものは無効と定めています。
特に10条は、改正案の条文で同じ表現を用いていることもあり、関係がわかりにくいかもしれません。

両者の主な違いは、次の3点です。
①定型約款の規制は事業者対消費者との取引に限られず、事業者対事業者との関係でも適用されること。

たとえば、事業者が市販のコンピュータソフトを利用する場合の利用規約は、消費者契約ではありませんが、定型約款として規制されることになります。
②不当性の判断のための考慮要素に違いがあります(両条文の文言を参照)。

消費者契約法は、事業者と消費者の情報力・交渉力の格差に着目して消費者を保護する狙いがあるのに対し、民法の定型約款規制は、包括的で希薄な契約意思しかないにもかかわらず契約の拘束力を認めることから生ずる弊害への対処という観点を持っていることによる違いです。
③効果が無効か組入れ否定かという違いです。

無効は合意があったことを前提にその効力を認めないことを意味しますが、組入れ否定ではそもそも合意の存在が認められません。ちなみにこの点も最終段階で表現の変更があり、「(合意をしたとみなす条項に)含まれない」としていたものを「合意をしなかったものとみなす」と改めた経緯があります(部会資料88−2)。仮に不当条項について個別の合意をしていた場合には、この変更によって結論に違いが出るようにも思われます。

 

定型約款の変更(改正案548条の4)

約款は、法令その他の取引を取り巻く状況の変化により、変更の必要が生じることがあります。
サービスの向上のため変更を欲する場合もあるでしょう。
そのような場合に顧客の一人一人から変更の了解を取っていたら約款の意味がありませんから、変更は一方的に行われます。みなし合意により契約に組み入れられた定型約款についても、一定の場合には定型約款準備者による一方的な変更を許す必要があります。

改正案が定めた変更の要件は次のとおり、変更が相手方の利益になるかならないかにより異なります。

  1. 利益になる場合:常に変更できる(改正案548条の4第1項1号)。
  2. 利益にならない場合:変更が契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、変更をすることがある旨の定め(変更条項)の有無とその内容、その他変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは変更できる(同項2号)。
  3. 変更をするときは効力発生時期を定めた上で、その時期が到来する前に適切な方法で周知しなければ、変更は効力を生じない(同条3項)。

 

変更条項の存在は必須の条件ではありませんが、変更内容に合致した条項があらかじめ用意されていれば、2号の合理性が認められやすくなります。
周知義務は同条2項により利益変更かどうかを問わず生じますが、周知義務違反が効力発生を妨げるのは不利益変更のみです。

なお、同条4項は、1項2号の不利益変更の場合について、548条の2第2項の不当条項規制が適用されないと定めています。
これは変更内容が不当であってもよいということではなく、1項2号により変更の合理性が問われる結果、不当条項規制よりさらに厳しく内容の合理性が保たれることになるため、確認の趣旨で置かれた規定です(部会資料88−2)。

 

終わりに

以上が、定型約款の新規定の内容です。

定型約款については、全体として実務を変えようとする趣旨ではなく、実務に追随して民法を現代化させる方向の改正ではありますが、これまで不明確だったところを明確にすることで、実務へもある程度の影響はあるように思います。
たとえば、不当条項規制はこれまで判例が民法90条を根拠に判断してきたところと結論を変えるものではありませんが、明文化されたことで相手方から主張される機会が増え、トラブルとなる件数が増える可能性もありそうです。

定型約款を準備する側としては、これまで以上に不当条項に注意し、現行の約款についても内容を精査する必要があると思います。
また、約款の変更の必要に備え、合理性が認められやすくなる状況を整えておくことも重要で、特に変更条項は入れておいた方がよいといえるでしょう。

一方、契約の相手方となる一般の利用者にとっては、定型約款とはいちいち読まなくても大丈夫だということがはっきりしたのではないかと思います。もちろん不利な条項のすべてが不当条項になるわけではありませんし、余計トラブルを避けるためにはできるだけ目を通すに越したことはないでしょうけれど、読んでいなくても不当条項からは守られるという仕組みが明文化されたことは、安心につながると評価できます。

 

 

愛知・岐阜・三重などの名古屋近郊で、契約のトラブルなど、法律問題でお悩みの方、中小企業・事業者の皆様は、名古屋駅前の中部法律事務所まで、ご相談下さい。

簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ27 定型約款(ていけいやっかん)・中編:契約への組み入れ要件・開示~

今回は,簡単・分かりやすい民法改正解説シリーズの第27弾です。

 

前回,「定型約款(ていけいやっかん)」について、民法で新たにルールが新設されることとなったこと、そのポイントとして、

  1. ①定型約款に記載されている個別の条項が、当該顧客との間で契約の内容として組み入れられるための要件
  2. ②不当条項の規制
  3. ③定型約款を変更するための要件

について、新たにルールが設けられることになったと説明しました。

前回のコラムはこちら:簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ26 定型約款(ていけいやっかん)・前編:改正の経緯・定型約款とは~

 

定型約款・中編の今回は、①定型約款の個別の条項が、当該顧客との間で契約の内容として組み入れられるための要件について、詳しく説明・解説していきます。

 

契約への組入れとその要件(改正案548条の2第1項)

定型約款は、個別の条項について合意がなくても次の3種類の場合には合意があったとみなされ、契約の内容となります。
定型約款の個別の条項が、契約の内容として取り込まれることを、「組入れ」といいます。

パターン①:定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき(同項1号)

例えば、、契約書に約款による旨の記載がある場合や、オンラインでサービスを申し込む際に利用規約へ同意するボタンをクリックする場合にはこれに当たるといえます。オンラインショッピングでは、しばしば注文行為が利用規約への同意とみなされるという仕組みを設けていることがあり、この場合はやはりパターン①の一種となると思われます。

パターン②:定型約款を準備した方の当事者(定型約款準備者)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき(同項2号)

契約書に記載はないが、申込書類と一緒に定型約款のパンフレットを交付していた場合や、オンラインショッピングで利用規約の表示はしていたが、同意させたり同意とみなす措置を取っていない場合が考えられます。
もっとも、パターン①の合意は黙示の合意でもよいため、パターン②との区別は微妙な場合もありえます。

パターン③:定型約款準備者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を公表していたとき

例えば、電車、バス、飛行機の利用や高速道路の通行等については、事前の表示すら煩雑で、双方にとって不便と考えられます。そこで、これらの特殊な取引に限り要件をさらに緩和するため、各種特別法においてパターン②の「表示していた」を「表示し、又は公表していた」と読み替える規定を置く改正を行うことが予定されています。

 

定型約款の開示義務(改正案548条の3)

上記の組入れ要件の中で要求されている「定型約款を契約の内容とする旨」の合意、表示ないし公表とは、「定型約款がありますから、それに従いますよ」ということで足り、定型約款そのものの内容を見せることは、組入れ要件としては要求されていません。
契約前にはほとんど約款が読まれていないという実態に合わせたものであり、ほとんど読まれない約款を常に見せてから契約しなければならないとするのは、煩雑にすぎて約款を使うメリットを失わせてしまいかねないからです。

しかし、契約の相手方としては、もし読みたいと思ったら読める状態でなければ、契約内容を知る機会すらないことになり、契約の拘束力の根拠は当事者の意思であるという上述の大原則と離れすぎてしまいます。
そこで、相手方は契約の前と契約後相当の期間が経過するまでの間は、定型約款の内容を示すよう請求することができるとされました(改正案548条の3第1項)。

契約後とは、継続的な契約であればその契約が終了した後のことを指すので(部会資料75B)、契約継続中はいつでも請求できることになります。もっとも、すでに相手方に書面の交付等手元に残る形で開示していた場合には、重ねて開示請求に応じる義務はありません(同項ただし書)。

約款の開示請求があった場合には、定型約款準備者は遅滞なくそれに応えて相当な方法で定型約款を示さなければなりません。
この開示義務に違反すれば債務不履行となり、損害賠償等の責任を負うことになります。さらに、契約前の開示請求を正当な事由なく拒んだ場合には、定型約款の組入れが否定されるというペナルティがあります(同条2項)。
相手方に不利な内容の定型約款をわざと開示せずに契約させるといった事例に対処するためです。
「正当な事由」の例として「一時的な通信障害」が条文で示されていますが、このような不可抗力ともいうべき事態に限られるのであれば、事実上、契約前の開示請求を拒絶した場合には多くの場合に組入れが否定されることになるととらえた方が良さそうです。

 

終わりに

以上が、定型約款の個別条項を契約内容と組み入れるための要件と、定型約款準備者の定型約款開示義務に関する新たな規定です。
次回、定型約款の最終回・後編で、定型約款における不当条項の規制、定型約款を変更するための要件について、詳しく説明・解説していきます。

簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ26 定型約款(ていけいやっかん)・前編:改正の経緯・定型約款とは~

今回は,簡単・分かりやすい民法改正解説シリーズの第26弾です。

 

民法が,私たちにとても身近なルールを決めている法律であることは,シリーズ“ゼロ”でお話ししたとおりです。
(⇒簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ”ゼロ” 民法改正の意味~

 

今回は,民法改正の重要な変更点の1つといわれる「定型約款」についての改正内容を見ていきます。
「ていけいやっかん」と読みます。
なぜ、重要な変更点の1つというかというと、これまで、定型約款については、民法上、何らの規定も置かれていなかったからです。
民法の現代化の1つとして、今や私たちの生活にとても身近な存在になった定型約款について、新たに規定が置かれることになります。

今回から、前編・中編・後編の3回に分けて、定型約款の新規定を詳しく説明・確認していきたいと思います。
前編の今回は、新設の経緯やポイント、定型約款とは何か、その定義についてみていきます。

定型約款:新設の経緯

クレジットカードや銀行のサービスを申し込んだときに利用規定が書かれたパンフレットをもらったり、保険に入ったら約款の冊子が送られてきたり、パソコンのソフトの更新プログラムをインストールしたら利用規約への同意を求められたりした経験が、誰にでもあると思います。
これらの取引では契約の内容があらかじめ業者側によって決められており、利用者はそれを飲むか契約しないかの自由しかありません。
このあらかじめ定められた条項のセットを約款(やっかん)と呼びます。
大量迅速に多数の顧客と取引をしなければならない一定のビジネス分野では、約款の利用は不可欠です。

しかし、法律の世界では、約款には理論的な問題があります。
一般に、契約が当事者を拘束する力を持つ根拠は、当事者がその内容に納得して合意したという当事者の意思に求められます。このことは民法の大原則です。
ところが約款は、その条項の一つ一つについて話し合って合意するわけではなく、誰でも同じように一括で契約に取り込むことが前提になっており、そもそもほとんどの顧客は約款に目を通すこともありません。
それでも約款が契約の内容になり、当事者を拘束するのはなぜなのでしょうか。これまでの民法には約款に関する規定が一切なく、この点が不明確なままでした。

そこで、今回の改正で約款についてのルールを民法の中に新設することになりました。

 

定型約款:新規定のポイント

約款の分野は、完全に実務が先行して発展し、強固に定着しているという特色があります。
特に問題視される社会的実態がない限り、新しいルールによって実務を混乱させたり萎縮させることは避けなければなりません。
そこで、約款について、民法でどのようなルールを新たに置くかを考えると、大きく分けて次のようなポイントが考えられます。

  1. ① 約款も一定の場合には、個別に了解を取らなくても、また、顧客が読んですらいなくても、契約の内容に取り込まれる【契約への組入れとその要件】
  2. ② ただし、不当な条項はアウト【不当条項規制】
  3. ③ 一定の条件のもとで、後から一方的に変更することもできる【約款の変更とその要件】

 

「定型約款」の定義(改正案548条の2第1項柱書き)

約款に関する新ルールは、特に上記②の不当条項規制や③の変更要件に取締り的要素が入ってくる以上、適用範囲が広すぎると実務を妨げてしまう懸念があります。
そこで、どのような約款にルールが適用されるのかという範囲を適切に限定することが重要となります。
このような理由から、改正民法は「定型約款」という限定された概念を採用し、規制対象を限定するとともに、その定義を明らかにしています。
すなわち、新しいルールが適用されるのは一般に約款と呼ばれているもののすべてではなく、次の要件①②をいずれも満たすものだけです。

要件①:「定型取引」において用いられること。

「定型取引」にも定義が規定されていますが、簡単にいうと一対不特定多数の取引で、画一的な内容にすることが業者にとっても利用者にとってもお互いに合理的といえるもののことです。公共交通機関や各種生活インフラの利用、汎用ソフトウェアの利用が典型的に当てはまります。一方、労働契約は労働者の個性に着目する点で「定型取引」とはいえないため、就業規則等の労働条件を定める条項が用意されていても「定型約款」には当たりません。

要件②:契約内容とすることを目的として「定型取引」の一方当事者が準備していること。

いわゆる契約書のひな型は、交渉のベースとして参考にする程度の目的で用いられる場合には、「定型約款」に当たらないことになります。

以上の定義から導かれる具体例として、クレジットカードや銀行のサービスの利用規定、保険の約款、ソフトウェアやオンラインサービスの利用規約、交通機関の運送約款、宅配便の運送約款、旅館の宿泊約款など、日常生活で個人が関係する約款の多くは「定型約款」に該当すると考えられます。
一方、事業者間取引で用いられる契約書のひな型やフォーマットは、定型取引といえるのか、個別の交渉が予定されているかなどを考慮して「定型約款」に該当するかどうかを判断する必要があります。

 

終わりに

以上が、約款について新設されることとなった経緯と新規定のポイント、定型約款の定義です。

次回、中編で、約款規定のポインの1つ、①定型約款の個別の条項が、当該顧客との間で契約の内容として組み入れられるための要件について、詳しく説明・解説していきます。

簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ25 相殺・後編:4つの改正点~

今回は,簡単・分かりやすい民法改正解説シリーズの第25弾です。

 

今回のテーマは,前回の続き、「相殺(そうさい)」の後編です。

前回は、相殺の基本として、相殺適状(そうさいてきじょう)などの相殺の要件、効果、機能や行使方法の説明に合わせて、相殺については4つの改正が行われたこととそのポイントについてお話ししました。

前回のコラムはこちら:「簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ24 相殺・前編:相殺の基本と改正のポイント~

 今回は、4つの改正点について、詳しく解説・説明をします。

 

改正点①相殺禁止の意思表示(改正案505条2項)

民法は、当事者が相殺に反対の意思を表示した場合には相殺できないと定めています(505条2項)。相殺禁止の特約等のことを指しています。しかしその特約等があることを知らないで債権を譲り受けるなどした第三者は、不測の損害を被ることになるので、但書きで「善意の第三者に対抗することができない」と規定していました。
ところで、これとよく似た規定として債権譲渡の禁止特約に関する民法466条2項があり、やはり同様に「善意の第三者に対抗することができない」と規定されていますが、判例は善意かつ無重過失でなければならないとしていました。たとえば誰でも知っている銀行の預金債権の譲渡禁止特約を知らなかったというような重過失は、悪意と同じで保護されないという解釈です。今回の改正で、466条2項はこの判例に合わせて善意かつ無重過失を要求する内容に変更されることになりました。
相殺禁止の意思表示に関しても、重過失を悪意と同視する考え方には異論のないところだったので、466条2項に合わせて505条2項でも第三者に善意無重過失を要求する内容に変更されました。

 

改正点②不法行為等により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止(改正案509条)

たとえば、自動車事故を起こして相手に怪我をさせ、損害賠償債務を負った人が、たまたま同じ相手に債権を有していたとしても、その債権と損害賠償債務とで相殺を主張することは許されません(509条)。
現実に支払いをしてやらなければ被害者がかわいそうという被害者保護の趣旨で、このように規定されています。
また、これを禁止しておかないと、支払いが滞っている債務者に対して、どうせ回収できないならその分損害を与えてやろうなどと考えて、債権者がわざと不法行為を働くかもしれません。このような腹いせ防止の趣旨もあると言われています。
もっとも、このような趣旨からは、①生命、身体等のいわゆる人身損害について、②わざと損害を与える意図でした不法行為についてのみ相殺を禁止すればよく、不法行為全体を対象にしていたこれまでの規定は禁止の範囲が広すぎると批判がありました。
また一方で、医療事故や労災事故等の事例では、不法行為ではなく債務不履行による損害賠償債権が成立することがありますが、債務不履行による損害賠償債権にも同じ趣旨が当てはまるのではないかという指摘もありました。
そこで、今回の改正では、次のような表現で、相殺禁止の範囲を変更しました。

改正案509条 
次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。ただし、その債権者がその債務にかかる債権を他人から譲り受けたときは、この限りでない。
1号 悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務
2号 人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(前号に掲げるものを除く。)

2号が上記①の指摘に対応する趣旨で、債務不履行の場合も含んでいます。
1号は上記②に対応する趣旨ですが、こちらは債務不履行を含んでいません。これは、普通の金銭債務の不履行の場合、かなりのものが「悪意」つまりわざと損害を与える意図と認定されてしまう懸念があるためです。そこまで禁止の対象を広げる趣旨ではないので、1号からは外されました。上述の医療事故や労災事故の事例は、2号に該当することが多いので、改正の狙いは十分達成できるという判断と思われます。

 

改正点③差押えを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止(改正案511条)

相対立する債権の一方が、第三者に差押えられた場合のルールに関する改正です。
差押えられた債権の債務者(第三債務者)が、差押債権者に対して、相殺を主張できるかどうかについて、従来の規定は、差押えより「後に取得した債権をもって差押債権者に対抗することができない。」と規定していました。
その反対解釈として、差押前に取得していた債権があれば常に対抗できると解釈できそうですが、問題があるとして、古い判例は弁済期の先後で相殺の可否を分けていました。
簡単にいうと、自分の債務を遅滞しながら相殺適状を待って相殺を主張するケースまで差押債権者に勝てるとするのは行き過ぎだ、という理由です。
しかし、相殺が実質的には担保として重要な機能を果たしており、相殺に対する期待は強く保護すべきだという理解が広まったことから、後に判例が変更され、やはり条文通り、差押前に取得した債権があれば常に対抗できるということになりました(無制限説)。
今回の改正では、この判例の無制限説の立場が明文化されました。

改正案511条
1項 差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできないが、差押前に取得した債権による相殺をもって対抗することができる。
2項 前項の規定にかかわらず、差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであるときは、その第三債務者は、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる。ただし、第三債務者が差押え後に他人の債権を取得したときは、この限りでない。

1項の前段が、従来の規定を引き継いだ部分で、後段が無制限説を明言する部分です。
当初は、後段の内容のみの規定にすることで、相殺できるのが原則であることを示す意図があったはずですが(部会資料69A)、条文化の段階で前段が加えられ、前段の反対解釈を後段で述べるというあまり見たことのない体裁になっているように思います。
2項では、「差押え前の原因に基づいて生じた」債権について、相殺可能な範囲を拡大しています。平成24年に出た判例が、このような債権について破産手続開始決定後でも相殺可能と判断したことから、破産で可能なら差押えでも可能とすべきだろうということで、加えられました。

 

改正点④相殺の充当(改正案512条、512条の2)

当事者間において、相殺可能な債権債務を複数有している場合に、どのような順序で債務を消滅させるかは、従来の規定では、弁済の充当に関する規定が単純に相殺に準用されていました。
弁済の充当は、たとえば複数の借入債務がある状態で支払いをしたら、どういう順番で債務が消えていくか、利息はどうなるかというような問題です。
相殺であれば、複数の債務に対して1本の債権で相殺の意思表示をした場合、どのような順番で債務が消えていくか、と置き換えて考えることができます。

相殺の場合にややこしいのは、相殺は相殺適状の時にさかのぼって効力を生ずる(506条2項)ので、どの債務が相殺の対象となるかによって利息・遅延損害金の額が変わってしまうことです。
この点を分かりやすくするため、判例が「元本債権相互間では相殺適状となった時期の順に相殺する」というルールを確立していました。そこで、この点を明文化する改正が行われました(改正案512条1項)。
その後は従来と同様で、弁済の充当に関する規定にしたがって処理が行われますが、相殺の場合には準用されないはずの規定が混ざっていたのでそれを除くなどの整理を行い、条文が複雑化しています(改正案512条2項、512条の2)。
また、相殺のもう一つの特殊性として、相殺する側も複数の債権を相殺に供するケースが考えられるので、その場合には同じように処理するという規定が加えられました(改正案512条3項)。

 

終わりに

以上が相殺に関する改正点です。

 

相殺は、広く一般的に行われている取引であり、この点の改正は、債権回収などの実務においても大きな影響を与えるところです。
債権回収や相殺など法律のトラブルについては、当事務所弁護士にご相談ください。

簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ24 相殺・前編:相殺の基本と改正のポイント~

今回は,簡単・分かりやすい民法改正解説シリーズの第24弾です。

 

今回のテーマは,「相殺」です。「そうさい」と読みます。

「相殺」については、判例法理の明文化、判例を参考にした修正、不合理な点の是正等が行われています。ただ、相殺の要件、効果、行使方法など、相殺の基本ルールに大きな変更はないといえます。
ただし、相殺は、債務の消滅原因となる以外に、担保としての機能も有し、特に金銭債務について、実務的にも非常によく行われていることから、基本的な解説を行った上で、詳細な解説を行っていこうと思います。

今回は、相殺の前編として、相殺の基本、改正の概要について、説明・解説します。詳しい改正内容については、後編で説明・解説します。

相殺とは

相殺とは、ある人とある人が、同一種類の債権と債務をそれぞれ有している場合に、相殺の意思表示をすることで、債権と債務が重なり合う部分(対当額)について消滅させることをいいます。
例えば、Aさんが、Bさんから50万円を受け取る権利を有している一方、Bさんに100万円を支払う義務を負っている場合に、相殺の意思表示をすることで、債権と債務が重なり合う50万円については、それぞれ消滅し、結果として、AさんがはBさんに残りの50万円を支払えばよいということになります。
相殺の意思表示をする方の当事者の債権を自働債権(Aさんの権利)、される方の当事者の債権を受働債権(Bさんの権利)といいます。

相殺の機能

相殺は、法律上は、上記のような債務を消滅させる機能が規定されていますが、取引社会においては、担保として重要な機能を果たしています。
今回の改正においても、この相殺の担保的機能を害さないように、あるいは、より重視する方向での改正が行われました。

相殺の要件

相殺が認められるためには、①相殺適状にあること(現行民法505条1項)、②相殺禁止の意思表示がないこと(同505条2項)、③相殺禁止債権に当たらないことが必要です。
①の相殺適状(「そうさいてきじょう」と読みます)とは、簡単に言うと、当事者の間で、互いに、有効かつ同種で、相殺を許す性質の債権が対立し、双方が弁済期にあることをいいます。この点については、改正は行われていません。
②については、弁済の規定に合わせる形で、改正が行われました。
③の相殺禁止債権に当たらないこととは、具体的には、不法行為による損害賠償債権(同509条)、 差押禁止債権(同510条)、又は、 差し押さえられた債権(同511条)のいずれにも当たらないことをいいます。
これらの内、不法行為による損害賠償債権について、相殺禁止の範囲を狭める方向での改正が行われました。また、差押えられた債権についても、判例法理を明文化する内容の改正が行われました。

相殺の効果

相殺が行われると、対立していた債権債務は、対当額で消滅します(同505条1項)。
また、その時点は、相殺したときに消滅するのではなく、相殺適状のときにまで遡って、消滅します(同506条2項)。
これらの基本的な相殺の効果については、改正は行われていません。

相殺の方法

相殺は、対立する債権債務の一方当事者からの意思表示によって、行うことができます(同506条1項)。相手当事者の同意は不要です。
相殺の方法について、改正は行われていません。

その他の改正点

当事者間において、相殺適状にある債権債務が複数ある場合、どのような順序で相殺の効果が生じるかは、弁済の充当に関する規定が準用されています(同512条)。
この点について、弁済の充当に関する規定の改正が行われたことに合わせて、相殺に関する規定も改正、明文化するなどの改正が行われました。

 

終わりに

相殺に関する民法のルールの概観と改正点をまとめると、以下のようになります。

〈相殺の要件〉

① 相殺適状(505条1項)
② 相殺禁止の意思表示がないこと(505条2項)→他の規定に合わせ修正
③ 相殺禁止債権に当たらないこと
・ 不法行為による損害賠償債権(509条)→禁止の範囲を狭める修正
・ 差押禁止債権(510条)
・ 差し押さえられた債権(511条)→判例法理の明文化

〈相殺の効果〉

① 対当額で消滅(505条1項)
② 遡及効(506条2項)
③ 充当(512条)→判例法理の明文化

〈相殺の方法〉

一方当事者からの意思表示(法定相殺)(506条1項)

 

次回コラム、相殺の後編において、4つの改正点について、詳しく見ていきましょう。

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