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簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ7 債権者代位権~

今回は,簡単・分かりやすい民法改正解説シリーズの第7弾です。

 

民法が,私たちにとても身近なルールを決めている法律であることは,シリーズ“ゼロ”でお話ししたとおりです。 (⇒簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ”ゼロ” 民法改正の意味~) このルールの内,契約を中心とした債権について,大幅な変更が行われます。

 

今回は,重要な変更点である「債権者代位権」を,簡単・分かりやすく解説・説明していきます。

なお,債権者代位権と関連した重要な改正点として,「債権者取消権」もルール変更されますが,こちらは,シリーズ第8弾で,詳しく解説します。

 

債権者代位権とは

債権者代位権とは、債務者の責任財産(強制執行の対象となる財産)を保全するための制度です。

主に、抵当権や保証人などの担保を持っていない一般債権者が、債務者が無資力になって自分の金銭債権を回収できなくなる事態を防ぐため、債務者の財産管理権に介入して、放置されている権利を代わりに行使し、それによって債務者の財産を守り、自分の債権の強制執行に備えることができるというものです。

 

たとえば、G社が売掛債権を有している取引先S社が、さらにA社に対して売掛債権を有しているとします。

S社がG社への支払いを遅滞し、債務超過に陥っているのにA社に対する債権を回収しようとしない場合、G社は自己の売掛債権を保全するため、S社に代わってA社に対する債権を行使できます。これが債権者代位権の典型的な利用場面です。

この場合G社の売掛債権は被保全債権、S社の債権は被代位権利、A社は第三債務者という法律用語で呼ばれます。

 

現在の民法と債権者代位権の主な改正のポイント

この債権者代位権について、現在の民法の規定は1か条のみです。

 

民法第423条

第1項:債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りでない。

第2項:債権者は、その債権の期限が到来しない間は、裁判上の代位によらなければ、前項の権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。

 

この条文を解釈して、債権者代位の要件・行使方法・効果等についての判例が積み重ねられてきましたが、民法改正案では6か条を追加して(423条の2〜423条の7)、判例法理の多くを明文化すると同時に、一部で判例のルールを変更しました。

 

⓵要件に関する改正・・・判例法理の明文化

要件の面では、従来の423条から読み取れる要件「債権保全の必要性(債務者の無資力)」、「被代位権利が一身専属でないこと」、「被保全債権の履行期が到来していること」に加えて、次の要件が追加されました。

いずれも、異論のなかった解釈や判例法理の明文化です。

 

・被代位権利が差押え禁止債権でないこと(改正案423条1項但書)

・被保全債権が強制執行により実現することのできないものでないこと(改正案423条3項)

 

また、転用型の債権者代位権と呼ばれる問題についても、判例法理を明文化する規定を設けました。

転用型の債権者代位権とは、債務者の責任財産保全を通じた自己の金銭債権保全という本来の目的とは異なり、金銭債権以外の債権を保全するため、それと密接な関係のある債務者の権利を行使するというもので、一定の場面で判例が認めていました。

 

改正案はそのうちの最も代表的な場面である登記請求権の代位行使について規定を設けました(改正案423条の7)。

 

たとえば不動産がA→B→Cと転売されたがBがAに対する登記請求権を行使しないためにCも登記を得られないという場合、CはBに対する登記請求権を被保全債権として、BのAに対する登記請求権を代位行使できます。この転用型では、要件等が緩和されます。

 

なお、他の転用型の事例についてもカバーすべく一般的な規定を設けることも検討されましたが、見送られました。

これまでどおり解釈に委ねられることになります。

 

⓶行使方法に関する改正・・・判例法理の明文化

債権者代位権の行使方法に関連して、従来この制度が果たしてきた「事実上の優先弁済」という機能をどうするかが大きなテーマになりました。

債権者代位権は本来、債務者の責任財産を保全することで、自己の債権について将来の執行可能性を確保するためのものです。

 

しかし、被代位債権が金銭債権の場合、代位債権者が第三債務者からそれを取り立て、債務者に返還する代わりに自己の債権と相殺することで、事実上、他の債権者に対する抜け駆け的な形で自己の債権の満足を得ることができていました。

判例が直接取立てと相殺のいずれも許してきたためです。

 

この結論を好ましくないとする立場からは、債権者代位権の行使方法として、直接取立てや相殺を禁止する規定を設けるべきだという意見が出ていました。

 

しかし、改正案は最終的に、直接取立てを明文で認め(改正案423条の3前段)、相殺を禁止する規定は置きませんでした(禁止しない趣旨。部会資料73−A・31頁)。

長年にわたり、債権差押えよりも簡便な債権回収手段として機能してきた現状を変更することの弊害を懸念したことなどが理由です。

もっとも、相殺権濫用の法理により、個別の事案で相殺が許されないとされることはありえます。

 

さらにこのことと関連して、被代位債権が金銭債権などの可分債権である場合、債権者は被保全債権の額の限度でしか代位行使はできないという判例があり、事実上の優先弁済に否定的な立場からは変更が提案されていました。

しかし、事実上の優先弁済を認めることに伴って、この判例法理は明文化されて残されることになりました(改正案423条の2)。

 

③効果に関する改正・・・判例法理の明文化と一部変更

債権者代位権が行使された場合の効果については、まず、上述の直接取立てに対して第三債務者が支払い等をした場合、被代位権利は消滅するということが判例の中で当然の前提とされており、これが明文化されました(改正案423条の3後段)。

 

また、第三債務者がもともと債務者に対して何らかの抗弁(支払いを拒むことができる理由)を有していた場合、代位債権者に対しても同じように主張できるという判例があり、これも明文化されました(改正案423条の4)。

 

一方、ひとたび債権者代位権が行使された後には債務者自身は被代位権利を行使するなどの処分ができなくなるかどうかについて、従来の判例はできなくなるとしていたのに対し、改正案ではこれをできるということに変更しました(改正案423条の5前段)。

この効果は、債権者代位権が裁判外で行使された場合だけでなく、債権者代位訴訟を提起して債務者に訴訟告知(後述)を行った場合でも同様です。

債権者代位権は、あくまでも債務者が権利を行使しないためにその責任財産が減少しそうな場合にそれを防ぐための制度であって、債務者が自ら権利を行使する以上は何も介入できないという原理を重視したものです。

 

 終わりに

以上、今回は債権者代位権の改正について、説明いたしました。

債権者・債務者・第三債務者の三角関係を説明するにあたって、聞きなれない言葉が多く、難しい内容だったかもしれません。

ですが、債権者代位権は、売買代金や請負代金などの各種売掛・代金その他の債権を回収するにあたって実務上有効な手段とされており、この点の改正は、少なからぬ影響があるように思います。

 

 

 

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