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簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ14 保証④事業のための借入保証~

今回は,簡単・分かりやすい民法改正解説シリーズの第14弾です。

 

第11弾から、保証に関する改正について、説明・解説してきましたが、保証に関する改正の解説は、今回が最後です。

(第1回コラムはこちら:簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ11 保証①改正の概要~

(第2回コラムはこちら:簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ12 保証②契約後の情報提供義務ほか~

(第3回コラムはこちら:簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ13 保証③求償権・根保証の改正~

保証に関する第1回のコラム(民法改正解説シリーズ第11弾)で説明したとおり、保証は、大きく分けて、①保証人保護の強化、②規定の不合理な点の修正、③確立した解釈や判例を明文化するという、改正が行われます。

今回は、①にあたる改正として、会社が金融機関などから借り入れする際に、経営者個人やその親族などが行う保証(事業のための個人保証)に関する改正について、詳しく説明・解説していきます。

 

事業のための個人保証の大幅な規制①:第三者の保証は原則無効

事業のための借入れは、個人的な借入れと比べて、多額になるケースが多いです。
会社の債務を代表者個人が保証するケースはよく見られますが、それでは担保として足りず、親類や知人などの第三者に頼み込んで保証人になってもらうこともあります。
会社の経営状況をよく知っている経営者と異なり、第三者は経営状況を知らず、経営に口を出す責任も権限もないのに、多額の保証債務の履行を迫られることになるので、このパターンが最も深刻な問題だと認識されています。
これまでは行政的な対応として、金融機関に第三者保証を取らないよう求めるなどの措置がとられてきましたが、この際、事業のための貸金等債務の第三者個人保証は原則として無効とすべきだという考えが採用され、今回の改正はその考えに則って、改正が行われました。
すなわち、事業のための貸金等債務の保証・根保証を、第三者個人がすることは、原則として無効とされました。
ただし、第三者個人保証が一定の社会的機能を果たしている面は否定できないため、保証人が自発的に保証を申し出る場合には例外的に有効とすることになりました。
この保証が自発的かどうかの点は厳格に確認しなければならないため、公正証書の方式であらかじめ意思表示をしておくことを要求したのです。

改正案465条の6第1項は、この公正証書による保証の意思表示を事業のための第三者個人保証の有効要件として規定しています。
その趣旨は上述のとおり、原則として無効だが、自発性が確認できる場合は例外とするということだと理解しましょう(部会資料70A等)。

改正案465条の6第2項以下が定める公正証書作成の手続きは次のとおりです。公正証書遺言(969条)の方式が参考にされています。
① 保証人が保証契約の詳細な意味内容と、保証の意思を有していることを公証人に口授する(改正案465条の6第2項1号)。口がきけない者に関する特例あり(同465条の7第1項)。
② 公証人が①の口述を筆記し、保証人に閲覧させるか読み聞かせる(同465条の6第2項2号)。耳が聞こえない者に関する特例あり(同465条の7第2項)。
③ 保証人が②の筆記の正確さを承認し、署名押印する(同465条の6第2項3号)。
④ 公証人が①〜③の方式を踏んで作成されたことを付記し、署名押印する(同465条の6第2項4号)。

 

事業のための個人保証の大幅な規制:代表者等の保証は有効

事業のための個人保証として、第三者ではない個人による保証、すなわち経営者等による保証は、上記の規制対象から除外されます(改正案465条の9)。
代表者等、主債務者の業務を執行する権利を有する者はもとより、取締役等の重要な意思決定に関与できる者(同条1号)、議決権の過半数を有する株主等の実質的な支配権を有する者(同条2号)が列挙され、これらの者が保証人となる場合には公正証書による意思確認は不要とされています

ただし、この中に、「主たる債務者が行う事業に現に従事している主たる債務者の配偶者」(同条3号)が含まれている点には問題が残ると指摘されています。
典型的には代表者の妻を指します。
代表者とともに妻が保証人になるケースはかなり多く、中小事業者が融資を得るための実際の必要性が認められること、妻は夫を通じて経営の状態を知ることができること、妻自身も「事業に現に従事している」という限定を加えることで、情誼から断りきれずに保証人になるというパターンを防げること等を考慮して追加されたものです(部会資料78A等)。
しかし、「現に従事している」という表現には軽いお手伝い程度も含まれるように思われ、そうだとすると、他の類型に比べて経営者性があまりにも弱く、第三者保証を原則禁止する趣旨が貫徹されないという批判は免れないでしょう。
したがって、すでに指摘があるように、「現に従事している」とは同号前段の「共同して事業を行う」に匹敵する程度の強度の関与を有している場合に限定して解釈すべきだと思います。

 

事業のための個人保証の大幅な規制②:契約締結時の情報提供義務(改正案465条の10)

保証人が、契約締結時に、主債務者の経済状態について知らされることは、保証人のリスク判断のために非常に重要です。
一方で、主債務者にとってはプライバシーや企業秘密に関わる情報ですから、あらゆる保証の場合に常に情報義務を負わせるのは行き過ぎと思われます。

そこで、主たる債務者から保証を委託する場合で、かつ、多額になりがちな事業性の債務の保証の場合に限って、主債務者は、契約締結時に情報提供義務を負うこととされました

ちなみに、この規定が事業のための第三者個人保証の規制に続く位置に置かれているのは、上述のように適用範囲を限定した結果「事業のため」という点が共通することになったからであって、第三者個人保証規制の一環という位置付けではありません。第三者個人保証規制の対象は、事業のために負担した「貸金等債務」の保証・根保証であるのに対し、契約締結時の情報提供義務の対象は、事業のために負担した債務の保証・根保証である(貸金等に限定されない)点は注意が必要です。

情報提供の内容は、財産及び収支の状況(同条1項1号)、他の債務の有無・額・履行状況(同条1項2号)、他の担保があるときはその内容(同条1項3号)です。

情報提供をしなかった場合の効果は、保証契約の取消しという強力なものです。
ただし、情報提供の義務を負うのは保証契約の相手方である債権者ではなく、保証を委託しようとする主債務者であるため、債権者はこの情報提供義務がきちんと履行されたかどうか当然にはわからない立場にあります。
そこで、取消しができるのは情報提供義務違反を債権者が「知り又は知ることができたとき」に限定されました(同条2項)。これは、第三者の詐欺の場合に、相手方がその事実を知り又は知ることができたときのみ意思表示を取り消すことができる(96条2項)のと同じ構造です。

終わりに

以上、事業のための個人保証について説明・解説しました。
また、第1回から4回に分けて行ってきた保証に関する改正の説明・解説もこれで終了です。
これまで見てきたとおり、保証人保護の方策はかなり拡充されました。
個人的な情誼や曖昧な理解、甘いリスク判断で過大な保証債務を負担するケースが減るのは喜ばしいことです。一方で、融資を受けたい中小事業者にとっては、不安を感じるところかもしれませんが、今回の規制によっても、これまで保証が果たしてきた社会的機能を否定することは意図されておらず、必要な場面では保証を利用できる手立てが用意されています。

 

 

保証は、広く一般的に行われている契約であり、この点の改正は、債権回収などの実務においても大きな影響を与えるところです。
契約にあたって保証人を付けたい場合、主債務者が滞納している債務について、保証人から回収したい場合など、当事務所弁護士にご相談ください。

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