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簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ3 中間利息控除~


今回は,簡単・分かりやすい民法改正解説シリーズの第3弾です。

 

今回は,前回説明した「法定利率」の改正に関連した重要な改正点である「中間利息控除」を,簡単・分かりやすく解説・説明していきます。

中間利息の控除は,当法律でも多く扱っている交通事故の事案にも関連するもので,今後の実務に大きな影響を与える改正点だと言えます。

 

中間利息控除とは

本来は将来受け取るべきお金を前払いしてもらう場合,前払いしてもらう人は,本来の受け取り時まで発生する利息分を得ることができます。

本来は将来受け取るべきお金を前払いしてもらう場合に,将来にわたって発生するはずの利息分を差し引くことを,中間利息の控除といいます。

例えば,交通事故で後遺症を負い、労働能力が喪失したことによって将来得られたはずの収入の一部または全部を得られなくなることがあります。

この得られなくなった分を逸失利益といい、労働者の平均収入や平均就労年数等から金額を計算して、損害の一項目として請求することができます。

この時、計算した金額をそのまま受け取ると、もらい過ぎになるという考え方をします。なぜなら、逸失利益は将来の収入であり、本来は将来受け取るべきお金だけれど前払いしてもらうものです。

前払いしてもらったお金を本来の時期まで保持していれば、運用により損害額以上に利益を生じることになるためです。

そこで、公平のため「中間利息控除」によって将来にわたって発生するはずの利息分を差し引いて、逸失利益の減額をしているのです。

 

改正前の民法による中間利息控除

改正前の民法には,中間利息控除に関する規定はありません。

判例によって,中間利息を控除すべきことと,その計算に法定利率を用いるという点が示されています。

そして,実務上は、法定利率に基づいて複利計算した結果を反映させた「ライプニッツ係数」を用いて,中間利息の控除が行われています。

たとえば、30年に対応するライプニッツ係数は15.372です。

あと30年働ける人が後遺症で収入の2割を失う場合、

逸失利益は

年収 × 20% × 30年 ではなく、 ●年収 × 20% × 15.372 ●と計算するのです。

 

年5%による中間利息控除の結果、逸失利益はほぼ半分になってしまいます。  

 

民法改正後の中間利息控除

法定利率の改正により、中間利息控除の結果は大きく影響を受けることになります。 

シリーズ第2弾で説明したとおり,法定利率は,まず年3%に引き下げられ,その後さらに3年ごとに市場金利に合わせて変動していきます。   

 

中間利息控除の基準時

シリーズ第2弾で述べたとおり, 法定利率が3年ごとに見直されるとしても,具体的な債権に対する利息や遅延損害金については、基準時の利率が固定で適用され,途中で利率が変わることはありません

民法改正案では,中間利息控除の法定利率の基準時は,その損害賠償請求権が生じた時点(417条の2、722条)とされています。

 

先程の例で,民法改正・施行後3年以内に交通事故に遭い,後遺障害を負った場合,改正後の法定利率3%が適用されます。

そして年3%に基づいたライプニッツ係数は19.6ですので,逸失利益の計算式は,

● 年収 × 20% × 19.6 ●となり,

改正前より,逸失利益が増額することになります。

 

【参考情報】

法定利率/30年に対応するライプニッツ係数  

  1% /  25.808

  2% /  22.396

  3% /  19.6 

  4% / 17.292

  5% /  15.372

  6% /  13.765

  7% / 12.409

 

交通事故のケースで基準時を選択する余地があるか【応用】

◆交通事故で怪我をした後に法定利率が変動して低くなり、その後に症状固定を迎えたというケースで、逸失利益の算定額を高くするために、中間利息控除に変動後の低い法定利率を適用するように主張することができるでしょうか。

交通事故のような不法行為の場合、上述のとおり不法行為と同時に損害賠償請求権が発生し、遅滞に陥るという解釈が一般的です。

長く通院して完治や症状固定までに時間がかかればそれだけ賠償額は増えますが、それは金銭評価の問題であって、損害自体は既に発生しているのだと考えるのです。

この考え方によれば、交通事故については遅延損害金についても中間利息控除についても、事故の時点の法定利率が用いられることになります。

 

これに対し、損害のうち後遺症による逸失利益については症状固定時が損害の発生時であり、中間利息控除の法定利率の基準時とすべきであるという解釈も理論的には成り立ちます。

しかし、この理論は,おそらく裁判実務では認められないと思います。

なぜなら、仮に症状固定時説を採ったとすれば、次は症状固定がいつかという点が大問題になり、場合によって症状固定を早めたり引き延ばしたりする人も現れかねません。

また、市場金利の上昇局面と下降局面で事故時説と症状固定時説を使い分けて主張されることも好ましくないでしょう。

 

法制審議会の部会資料を見ると、法定利率の基準時は「客観的で明快」とし、債権者が恣意的に選択できないような基準とすることが望ましいとあり、この考え方を基に改正案が起草されています。

そして特に不法行為の場合の後遺症による逸失利益について、事故時説を採ることが述べられています(部会資料81B)。

このような起草者の考え方は、裁判においても参考にされ、事故時説で運用される目算が高いと思います。

 

終わりに

今回は,少し難しい内容だったかもしれません。ただ,法定利率の改正により,中間利息の控除額が大きく変動し,交通事故の被害者が受け取る逸失利益等に大きな差が出ることは,ご理解頂けたと思います。

 

○●バックナンバーのご案内●○

0 簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ”ゼロ” 民法改正の意味~

1 簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ1 消滅時効~

2 簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ2 法定利息~

 

 

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